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【『傀儡戦記』①巻発売記念スペシャル対談】 高殿円╳蛇蔵「漫画界震撼の巨大シェアード・ワールドは、いかにして生まれたのか?」

21/10/16
[企画・原案]
高殿たかどのまどか蛇蔵へびぞう
[原作]
高殿円
[参加作家]

白浜しらはまかもめ

春壱はるいち

山本やまもと小松こまつ

おかざき真里まり

中田なかた春彌はるひさ

and more...

傀儡くぐつ戦記せんきとは——
2020年の夏に始動した、参加作家が共通の世界観を元に物語をつむぎあうシェアード・ワールド企画。骨格となる世界観設定は高殿円氏&蛇蔵氏が担当。キーワードは“愛するものたちよ、殺し合え”。
神器じんぎと王のうつわ
神器とは、神秘の力を持つ存在。人間の姿とは限らない。大樹王になりうる王の器二人を指名する能力を有する。王の器に選ばれた者のうち、真の大樹王になれるのはどちらか一方のみ。大樹王の出現によってのみ、荒廃し続ける世界を止めることができる。
“愛するものたちよ、殺し合え。”刺激的なキャッチフレーズと共にスタートした『傀儡戦記』。原作者、漫画家、イラストレーターなど、超一流のクリエイターたちが参加する巨大プロジェクトはどのように進行していったのか? 前代未聞のシェアード・ワールドの生みの親・高殿円氏と蛇蔵氏に『傀儡戦記』の入り口を語ってもらった。
※月刊「モーニング・ツー」2021年9号に掲載された記事をウェブで再録しました。

——『傀儡戦記』の世界観や今後の展望についてたっぷりお話を聞かせていただきたいと思います。まず、高殿さんと蛇蔵さん、お二人の関係性は?
蛇蔵 ただの友だちです。
高殿円(以下、高殿) そうだね、間違いない。もう8年くらい前になるかな?
蛇蔵 きっかけは私が別ペンネームで運営していたブログを、高殿先生がたまたま見てくださっていたことからです。
高殿 (ブログの)大ファンだったんですよ。
——ブログが縁というのは意外です。
蛇蔵 海外のマイナーなインタビューをYouTubeで見つけて趣味で紹介するブログです。もう閉じてしまって今はありません。
高殿 私は一方的にブログを読んでいて、この方はすごい人だからぜひお会いしたいと。
——そのときはお互い素性がわからない同士だったんですよね?
蛇蔵 そう。最初はお互い作家であることを知らない状態で友だちになったんです。初めて会ったときのこと覚えてます?
高殿 覚えています。普段はあまり行かないんですけど、あのときは蛇蔵先生がいらっしゃるというのを聞きつけて立食パーティーに出かけて、「蛇蔵先生はいらっしゃいますか?」って近くの人に聞いて、ようやく会えたんです。そのときは“蛇蔵”というお名前じゃなかったですけどね。
蛇蔵 そこで初めて会ったんですけど、少しお話しただけで、「うーん、この人はたぶん作家さんに違いない」と感じて。
高殿 一瞬でバレバレだったという(笑)。私もすごい人に違いないと思っていたし。
蛇蔵 で、立ち話だったので、ちょっと場所を変えて話しませんか?って。
高殿 覚えてる~。
蛇蔵 手をつないで「人のいないところに行こうか」ってドアを開けて二人きりで街に出たんです。
——ドラマチック!
高殿 そう。まるで体育館に呼び出されるような感じで。
蛇蔵 合コンを抜け出すようにね! で、落ち着ける場所でお互いの自己紹介をしたら「めっちゃ知ってる作家さん!」ってなって(笑)。すぐに友だちになりました。私は高殿円先生の文章が大好きでしたから。
高殿 話してみたら好きなものが似ていたり、共通の知り合いがいたり。
蛇蔵 白浜鴎先生が高殿先生の『政略結婚』のイラストを担当されていたり、『主君 井伊の赤鬼・直政伝』のプロモーションイラストを紗久楽さわ先生が描かれていたり。実は狭い範囲で共通の知人も多いんです。その時も、すぐに何か一緒に仕事をしましょうって話になって、「ミステリマガジン」の「みんな洋画観ようぜ!」という連載を二人で持ったんです。
高殿 もう長いことやってますね。
お泊り会から生まれたシェアード・ワールド企画
——高殿円╳蛇蔵コンビはすでに出来上がっていたんですね。
蛇蔵 はい。お互いの家を行き来したりする仲なんですけど、高殿先生はいつも我が家に泊まるとき、夕飯を食べて寝るまでの間のちょっとした時間にお話をしてくださるんです。それがもう、キャッチーな設定で「それで? どうなるの?」って続きが気になる話を、まるまる3話くらい聞かせてくれるんです。
——それは気になりますね。
蛇蔵 即興で次から次へとアイデアが出ることに感動して。
高殿 私、友だちの家に遊びに行くと高い確率で「お話しして」って言われるんですよ。
——無茶振りですね。
高殿 「なんかお話ししてよ、お母さ~ん」みたいなノリでせがまれるので、「どういうこと?」って思いながらも、その場で思いついた物語を話すんです。でも、それは私にとって苦しくもなんともない、相手が喜んでくれる楽しい時間なんですけどね。
蛇蔵 私はその物語を聞きながら、「これは何かやれるかな」と。ただ、高殿先生がどんなにたくさんのアイデアを出したとしても膨大に生まれてくるすべての物語の面倒は見られないので、アイデア自体をシェアード・ワールドにして、他の作家さんが描いていくアンソロジー企画にしたら面白おもしろいんじゃないかなと思ったんです。
——黄金コンビ誕生の瞬間ですね。
蛇蔵 で、私自身の話をすると、私は作家としては一人でやるよりも、誰かを盛り上げたり、誰かのために何かをやるほうが向いているタイプ。たぶん、会社員生活が長かったせいもあってアーティスト性が薄いんです。それもあって、私が少しお手伝いをして、高殿先生のアイデアを具現化したらどうかと思ったんです。
高殿 二人で盛り上がったのは覚えていますね。
蛇蔵 あれが5年くらい前? 高殿先生はアイデアを出して先へ先へと進んでいただいて、私が整合性を調整したり、参加してくださりそうなお友だちに声をかけたりしてシェアード・ワールドを始めてみようと動き出したんです。
『傀儡戦記』のベースは“秒”で生まれた
——そうして『傀儡戦記』の企画がスタートするわけですね。
蛇蔵 もっとも5年前にほぼ本ができる状態にはなっていましたけどね。
——ええっ!?
蛇蔵 高殿先生が『傀儡戦記』のベースになるアイデアを出したのは“秒”でしたからね。
——“秒”で?
蛇蔵 最初に高殿先生が『傀儡戦記』をイメージした世界観を話してくださり、私がそれを元に設定を作り、そこから一気に全体の構想をまとめました。
——早すぎませんか?
蛇蔵 高殿先生はアイデアという魔法を生み出すのに詠唱えいしょう時間が必要ないんです(笑)。
——その時点ですでに九つの国があるとか、二人の王の候補が戦うとかの設定まであったんですか?
蛇蔵 ありましたね。設定集としてきちんと情報をまとめたりするのはそれなりに手間がかかっていますけど。土台は“秒”でしたから。アンソロジー企画にしようと最初から思っていたので、作家さん用の裏設定や、作中で公開していい情報、前提として理解していて欲しいことなど、作家さんだけが読める設定集をその時点で作りあげました。
——ちなみにモーニング編集部に企画が持ち込まれた日付は2017年3月です。そのときにはすでにほぼ今の形があったんですね。
蛇蔵 そうですね。
高殿 半分、我々が編プロのようなものですね。私が企画を作って、プロデューサーの蛇蔵先生が映画会社に持ち込んで映画を撮るみたいな感覚。製作総指揮を二人でやって、各作品の脚本をそれぞれが担当している感じですかね。
——お二人の中で作業の住み分けがあるわけですね。
高殿 私が先発隊みたいな感じで切り込んでいく役目で、蛇蔵先生が補給とか兵站へいたんを後方でしっかり支援してくださるイメージだと思ってください。
蛇蔵 人には向き不向きがあって、向いていることをやればいいと思っているので、高殿先生には先頭でアイデアを出してもらって、シナリオも好きに書いて欲しい。齟齬そごが出てきたら私が勝手にいじりますと。そこに手を入れる信頼関係は出来上がっています。
——アンソロジー企画だけに、参加される作家さんを集めるのは大変だったのでは?
高殿 シナリオを進めつつ、参加してくださる作家さんのスケジュールの確認もし始めました。やっぱり錚々そうそうたる作家さんたちに描いていただくので、そこからは編集部のみなさんとプロジェクトを作って、映画にたとえるなら俳優さんの出演交渉を始めるみたいな。みなさん忙しい方なので、1年前のオファーでは間に合わない。
蛇蔵 なのでアイデア自体はかなり早い段階でまとまったのですが、公開まですごく時間がかかってしまったのはやはりそこです。連載を持っていらっしゃる方だとその合間を縫ってとか、連載が終了した瞬間だったり、「この年の間でここの期間なら」というピンポイントの方をお待ちしたりもしましたし。でも、そのぶん素晴らしいラインナップになったと思います。
——なかなかこの面子めんつそろわないんじゃないでしょうか。
蛇蔵 もともと私も高殿先生も海外ドラマが好きなので、『スタートレック』や『ドクター・フー』、ゲームの『ウィザードリィ』とか、ああいったシェアード・ワールドのファンなんですよね。世界観がまず存在して、そこにライターさんやイラストレーターさんが参加していく。いろいろな作家さんの味が同じ世界観に出てくるのは、面白いと思うんです。
——日本の漫画界ではあまり見ない試みです。
蛇蔵 珍しいかもですね。でもゲームの世界ではよくありますし、アニメでは「ガンダム」シリーズもそうだと思います。シェアード・ワールドというパッケージを作って、そこに作家さんが自由に作品を詰め込めたらいいと思ったんです。連載を持っている作家さんってちょっと変わった設定の作品や、特殊な話を描きたいと思っても長期連載をしていると描けないんですよね。普段、私は楽しいマンガを描いていますけど、いきなり登場人物が殺し合うエピソードは差し込めない。そうなるとせっかく思いついたアイデアはどこにも昇華されない。
——確かに『天地創造デザイン部』でいきなり殺し合いがあったらびっくりします。
蛇蔵 あと、短編ってせっかく描いても単行本のどこに収録するんだ、という問題があったりするので、なかなか描きづらい状況があるんです。だけど、『傀儡戦記』だとみなさんの短編を集めて単行本が出るので、普段のテイストではない実験的な短編を描けるという。しかも『傀儡戦記』としてはシェアード・ワールドに厚みが増すので、ウィンウィンのプロジェクトを目指しています。
——作家さんの新たな面が見られるのは単純にうれしいです。
蛇蔵 なので最初は知り合いの作家さんに「こんな企画があるんだけどどう?」って声をかけるところから始めました。
クリエイティビティの使い分け。ルールの元で自由に遊ぶ
——九つの国があり、神器が大樹王になりうる王の器を二人選ぶという世界観の発想の原点は?
高殿 すごく端的に言ってしまうと、人様の描く殺し合いがいっぱい見たかったから。
蛇蔵 ハハハ。
——言い方はアレですけど、殺し合いを見るシステムとしては絶妙です。
高殿 10年、20年、クリエイターをやっているとどうしたって自分の好みが固まってきて、発想の幅はそんなに広がらない。自然と自分の好むほうにいってしまうんですね。意識しないと似たような作品になったり、同じ結論づけをしてしまったり。ところが、共通ルールのある世界観で描いてくださいって言われると気持ちが全然違ってくる。たとえば、「お金を好きなだけあげるから自由にあなたの好きな小説を書いて」と言われるのと、「いくらお金がかかってもいいから『スター・トレック』の続編を書いて」って言われるのは大前提から違うと思うんです。
——新しい作品を作るにしてもまったく別物ということですね。
高殿 私は『スター・トレック』が大好きだからオファーされたら「喜んでやります!」ってやるんですけど、そのときは『スター・トレック』といえば、「コレでしょう!」という設定やお約束を全部踏んでいかないといけないですよね。むしろお決まりをどう踏むかが逆に楽しみだったりする。まったくのオリジナルを作るときと、使う脳みその部分が全然違うように感じるんです。
——なるほど。
高殿 その点、『傀儡戦記』に参加してくださる方たちはすでに更地に自分のお城を建てている方だから、そうではなくてある程度、決まっているものの中で個性を出す作品を作るのはいかがですか? というのが今回のプロジェクトです。クリエイティビティの使い分けがあると思うんですよ。で、蛇蔵先生が言われているみたいに、短編って今、なかなか発表できないけど、『傀儡戦記』でならページ数の都合もきくので我々がなんとでもして商品にしますよと。
蛇蔵 私たちはとにかく作家さんを信頼しているので、作家さんがお持ちのアイデアの種、ストーリーの種を自由にこの土壌で花開かせてください。私たちはそのお手伝いをしますというプロジェクトです。なので、こちらから「こういうものを描いて欲しい」ということは一切、頼みません。
高殿 そう。自由に描いてくださいって言ってます。
蛇蔵 ただ、作画に専念したい作家さんもいらっしゃったので、ここに二人も原作者が落ちているんだからと、自分たちで原作を書いてもいます
——春壱さんの『満願』、中田春彌さんの『ゴーム』が高殿さん原作、山本亜季さんの『あいのはな』(2巻収録予定)は蛇蔵さんが原作ですね。
高殿 逆に原作をやりたいと手をあげてくれた作家さんもいらっしゃいます。
蛇蔵 これは言っていいのかな? 『文豪ストレイドッグス』の朝霧カフカ先生が原作で参加したいと言ってくださったので、あとから作画の方をマッチングしてもらって現在、進行中です。すごく楽しみです。
高殿 もう、マンガ家さんだけじゃなくて、参加したい方がいたらどんどん手をあげていただきたいですね。あとは我々がなんとかするからっていう。
“殺し合い”が見てみたい。人が人を犠牲にするドラマ
——王と王の器が殺し合うという設定は、確かにいろいろなパターンが想定できますし、今後もいろいろなストーリーが生まれそうですね。
高殿 これは普段からの私が考えていることに直結しちゃうんですけど、人間の社会って常に何かを犠牲することによって成り立っていますよね。それをなんとかしようっていうのが文化であり、文明社会だったりすると思うんです。“人を犠牲にする選択を迫られる”って聞くとなんだか非日常的に思うかもしれませんけど、そもそも我々は毎日、肉を食べたり、野菜を食べたりしているので自然とその選択をしちゃっている。それを可視化するだけで、『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいな容赦のない世界観になるんじゃないかなと。
——特殊な設定だけど、実は私たちの非日常ではない。
高殿 皮膚の中の細胞同士、サバンナの種族をかけた戦い、いろんな表現があると思うんですけど、可視化するときにわかりやすいほうがいいだろういうことで、個の国があって、王の座をかけて二人が殺し合うというパッケージにしました。人が人を犠牲にするときにはどんなドラマがあるんだろう、って普段から意識していたのが、アイデアの種になった気がします。
蛇蔵 私は高殿先生とは真逆のタイプで、まず企画を立てるときにその本が書店に並んだ姿を想定します。なので、今回は“愛するものたちよ、殺し合え。”という帯がかかった書籍が書店に並んでいるイメージから始めました。
——それはまた面白い発想ですね。キャッチフレーズから先に物語をイメージしてくってことですよね?
蛇蔵 そうです。キャッチフレーズありきです。
高殿 そのキャッチフレーズは企画書の一番最初から書いてました。
蛇蔵 “愛すれば愛するほど殺し合いに近づいていく”っていう、逃れられない世界観の中で人々はどうやって生きていくのかが描かれるわけですが、その殺し合いを描きたくなければ、それを傍観しているキャラクターを主人公にしてもいいし、そのしがらみから逃げるキャラクターを描いてもいい。
——主人公が王と王の器じゃなくてもいいわけですか?
蛇蔵 はい。参加してくださる作家さんに好きなように描いて欲しいというのがコンセプトですから。一応、王と王の器が親子、兄弟、異性、同性、とにかく愛すれば愛するほど、心がつながれば繫がるほど、殺し合いへの階段を登ってしまうという容赦ない世界を用意はしましたよ、というだけです。
——蛇蔵先生はやはりプロデューサー視点で考えられてるんですね。
蛇蔵 そうですね。私は別に特に殺し合ってほしいとは思わないタイプなので(笑)。
お互いの作品のクロスオーバーもアリ。あらゆる方向性をカバーする設定
——実際、作家さんへのオファーや依頼方法はどのようにされているのですか?
蛇蔵 最初は知り合いの作家さんに「こんな企画に参加しませんか?」と声をかけるところからはじめました。こちらからは設定集とサンプルとなる第一話のシナリオをお渡ししました。
——サンプルを先に作られたんですね?
高殿 モノを作られる方はわかると思うんですけど、アイデアってある程度、形にしてみないとわからない部分があるんです。頭の中にある状態で進めると、実際の作業で齟齬そごが出ちゃうとか。なので、まずはアウトプットをしようということで、単行本の第一話に収録されている春壱先生が作画された『満願』をパイロット版のシナリオとして書き上げました。実際、書き始めてみると、「王様ってなんて呼ぶの?」「神器は器でいいの?」といった疑問がけっこう出てくるんですね。なかでも“王の器”という名前はなかなか決まらなかった。既存作品と被ってもダメだし、名称問題はかなり試行錯誤しました。
蛇蔵 高殿先生から「これどうしよう?」「あの名前はどうする?」ってすごく連絡が来ました。「とりあえず(仮)で名前つけておいて」って返事をして。高殿先生から来たシナリオの言葉を置換して変えたり、呼び方を全部変えてみたり。シナリオと同時進行でいろいろ詰めていきました。
高殿 書いてみないと何が必要かわからない。いちばん印象的だったのが“神器”って言葉。私は違和感なかったんですけど、シナリオがかなり進んだ段階で、「はて? この世界に神はいるのか?」という話になったんです。“神器”は神の器と書くけどいいのだろうかって……それに関しては蛇蔵先生とお話をして、ちゃんとした設定のもとで“神器”でOKってことになりました。だけど、実際に書いて問題に直面しないと輪郭がはっきりしないんですよね。
蛇蔵 そう。物語を作ってみないとマップが開いていない状態というか。マップの四角い枠だけあっても、中身が真っ黒だとどっちに進んでいいかわからない。なので、『満願』のシナリオをパイロット版とすることで調整していきました。
——パイロット版があると参加する作家さんもイメージをつかみやすいですよね。
蛇蔵 そうですね。世界観を説明した設定集と第一話のシナリオを作家さんに共有して、それをベースに「好きに描いてください」というお願いをしています。
——逆に参加作家さんがやりすぎた内容になったこともあるんじゃないですか?
蛇蔵 国が九つあるので好きな文化で描いてほしいし、なんなら前回の国が滅びてイチから文化が始まるのでもいい。こちらはどんなものでも受け入れます。ただし、あまりにも世界観を壊すようなものは調整が必要かもしれないので、事前にネームを見せていただくことは了承してもらっています。
——今までにこれはちょっと……という設定はありましたか?
蛇蔵 みなさんすごく力量がある方々なので、こちらからNGを出したことはないですね。特殊なオリジナルアイテムを出したいなどの相談に乗ったりはします。年号の修正はしましたけど、むしろ辻褄つじつまが合わない時はこっちが設定でフォローするので好きにやっちゃってください、って気持ちです。
高殿 そうそう。みなさんが普段、できないことをやってもらえれば嬉しい。神器同士の話でもいいですしね。コンタクトを取れるかどうかは知らないですけど(笑)。そういう話がきたら我々が設定をなんとかするので、縛りはないんです。
蛇蔵 あまり利用されていませんが、お互いの作品を使っていいというOKも頂いています。なのでこれまで出てきたキャラクターや設定を使って料理してもらっても構わないんです。
——リンクした作品もありますよね?
蛇蔵 私が原作のものでやりましたけど、それもOKなんです。どなたかが作られた国を滅ぼしてもらってもかまわないんです。もちろんその際は、作った作家さんに「〇〇さんがこんなふうにキャラクターを使いたいと言われていますがよろしいですか?」と私が取り持ちはします。そのときに「このキャラクターは絶対に使わないでください」ということもOKですよと。
——王と王の器と神器が出てればどんな内容でもいいわけですね。
蛇蔵 むしろ、それらが出ない作品でもいいです。なんなら城の横で鳥が子育てして飛んでいくだけの話でもいいと思っています。
——でも、さすがに未来であるとか、王がいない世界であるとかはダメですよね?
高殿 大丈夫ですよ。すっごいSFを描いてもらってもいいです。『ブラックミラー』のようなめちゃくちゃ未来のエピソードを描いても成立すると思います。
蛇蔵 ただ、あまりにも世界観をぶっ壊す話を描かれた場合、その直後に私が壊れた世界をもう一度壊すエピソードを入れます(笑)。そういう創作バトルを楽しんでいただけたら嬉しいですね。
高殿 『ファイナルファンタジーⅩⅣ』みたいに隕石を降らしてなかったことに全然できちゃう。
白浜鴎氏のプロローグ。春壱氏の馬へのこだわり
——白浜鴎さんが描かれたプロローグは素敵でした。
高殿 いわゆる「こんな世界があります」というのはオープニングに必要だと思いまして、私がモノローグのセリフを書いて、白浜鴎先生にお願いしました。私は文章だけしか渡してなくて、どんな絵にして欲しいとかは言ってなかったのですが、出来上がったものは素晴らしかったです。
承前白浜鴎
『とんがり帽子のアトリエ』でおなじみ、白浜鴎氏によるプロローグ。「神器」という人間を超越した存在が、世界の成り立ちを解説している。
白浜鴎氏より
「原作をいただいて漫画を描くのは初めてで、とても新鮮で楽しかったです。自由に描かせていただきましたが、絵巻物や挿絵のように、高殿先生のモノローグや、物語全体に寄り添える漫画であったら嬉しいです」
蛇蔵 とにかくビジュアルの印象と自由なレイアウトが素晴らしい。装飾的で他に類をみないコマ割りの美しさですよね。白浜先生は一枚絵として完成されているのに、マンガとしても読みやすいレイアウトをされるのでそこがすごい。今回も放射状にコマを切るといった印象的なページ作りをされているので、堪能して欲しいです。
高殿 ちなみに繰り返し出てくる童謡みたいな詩は、この世界における統一アイテムの一つです。神器もそうですけど、どう解釈してもいいし、しなくてもいいけど、この世界に伝承されているものだと。「花いちもんめ」とかもちょっとずつ地方によって歌詞が変わったりしますけど、そんな感じで受け継がれている詩なんです。
——そういえば単行本の掲載順と「モーニング・ツー」での発表順が違うのには意図があるんですか?
蛇蔵 単行本の第1話は、春壱先生が作画をされた『満願』です。そもそも第1話として掲載する予定の物語だったので、本来の位置に戻したんです。
——5年前からシナリオはできていたわけですもんね。
蛇蔵 はい。ぶっちゃけると「モーニング・ツー」の発表順に関しては作家さんのスケジュール優先です。単行本に関しては読者さんに楽しんでもらえる順番に並べています。
高殿 『満願』が“殺し合い”を描くときのいちばんオーソドックスなパターンだろうと。一番最初はシンプルにわかりやすいものがいいな、と。
蛇蔵 最初にシナリオをいただいた時、もちろん素晴らしかったんですけど、そのままだとページ数があまりにも増えそうだから、この辺の戦闘の決着を早めるためにアイデアを足しましょうとか、話し合いましたよね。
高殿 共同脚本みたいな感じですね。
蛇蔵 そういえば、プロジェクトの初期から白浜鴎先生にはお世話になってますね。『満願』のシナリオについて、マンガとして絵になる場面にするために、いろいろアドバイスをいただきました。なので『満願』のシナリオには白浜先生の要素が入っているんです。
——なるほど! そういう繫がりがあって1巻の表紙で白浜さんが『満願』に登場するキャラクターを描かれているんですね。
高殿 そこから作画をどうするかという話になって、私が春壱先生に声をかけさせていただきました。先生の絵はお話にぴったりで、特にシナリオの中にいたジェミンが、春壱先生のウルトラ作画能力によって人間の形になり生きていくのを読むのは感無量でしたね。春壱先生からは「馬がいっぱい描けて幸せでした」というコメントをいただきました。
——確かに馬の躍動感には目を見張りました。
高殿 馬のお尻とかもこだわって描かれたと思うんですよね。春壱先生は今、『STAR WARS/レイア ―王女の試練―』を描かれているので、宇宙船を描く機会はあるらしいんですけど、馬を描く機会はまったくないので、嬉しかったっておっしゃってました(笑)。
[第一話]満願原作 高殿円 漫画 春壱
荘園領主の長男として生まれながらも、身体が弱く、瀕死の状態にあった主人公のジェミン。絶望したところを「神器」に救われ、自身が「王の器」に選ばれたことを知る。もう一人の「王の器」であるテグシンと出会い、彼が率いる反乱軍と共に王都陥落を目指す。
春壱氏より
「最初に高殿さんからお話を頂いた時は打ち震えました……! 今のところアメコミ関係のお仕事をさせていただくことが多いので、ファンタジーという違うジャンルで機会をくださったのはもちろん、元々は重厚なファンタジーや戦争もの、そして馬が好きなので、好きなものをギュッとまとめて全部描かせてもらえたのは本当に嬉し・楽しかったです。頂いた原作や資料を元に、キャラクター達の暮らしや文化、馬の品種まで深掘りして考える時間がとても幸せでした」
——原作者として作画に関してリクエストをされたりは?
高殿 ネームの段階で一箇所だけお願いしたことがあります。最初、神器は女の子として描かれていたのでイケメンにしてくださいとリクエストしました。
蛇蔵 白浜先生がプロローグで神器を女の子で描いたから合わせてくださったのかもしれないのですが、神器の見た目は自由でいいので。
高殿 設定上、神器の容姿はばらけさせたかったんです。そうしたらゴリゴリのイケメンになって返ってきて、しかも肩に鳥が乗っているという。なるほど。春壱先生のなかでイケメンってこういう人なんだと。
蛇蔵 イケメンの定義が「肩に鳥を乗せてる人」(笑)。
高殿 イケメン、肩に鳥を乗せがちなんだと思って。イケメンと鳥ってもう私的には二度おいしくて感動!
蛇蔵 モブシーンや景色も楽しんでもらえたらと思います。キャラクター、風俗、風景、群衆たちが着ている衣装、彼らの着こなしや布の巻き方とか、髪型、そういったものすべてを春壱先生が創作されているので、そこも見どころですね。
山本小松氏の新作は貴重!殺し合いの王道をご覧あれ
——第二話は山本小松さんによる『水は血となり』です。この作品は山本小松さんのオリジナルストーリーです。
蛇蔵 山本小松先生もプロジェクトに初期から参加してくださっていました。
高殿 私は小松先生の作品が大好きなんですけど、寡作かさくでなかなか新作を描かれない。なので、「こういうシェアード・ワールドを作ったので参加して欲しい」とオファーをしました。実際に原稿が届いたときには、「山本小松先生に原稿をいただきました! ファンの方たち私たちをたたえて」って気持ちでしたね(笑)。
——『水は血となり』は盗賊のシンと目の見えないグの駆け引きに引き込まれます。
[第二話]水は血となり山本小松
生きるために人を殺し、盗みを繰り返すシンと盲目のため厄介払いされたグ。「神器」によって、それぞれ「王の器」に選ばれる。世界から見放された二人が共に「玉座」を目指すロードムービー。
山本小松氏より
「高殿先生の設定やコンセプトをベースに創作をするという、普段とは違ったアプローチで漫画を描く貴重な経験をさせていただきました。想像の膨らむ設定なので、多様なシチュエーションや対立のパターンがそれぞれの作家様の個性で彩られていくのだろうなと、いち読み手としても楽しみな企画でした。そのうちの一つとして関わらせていただけて嬉しいです。高殿先生、蛇蔵先生ありがとうございました!」
高殿 私、このお話、とても好きです。そもそも『傀儡戦記』における私たちの存在って『バトル・ロワイアル』におけるビートたけしの立ち位置なわけです。
蛇蔵 「みなさんにちょっと殺し合いをしてもらいます」ってやつね(笑)。
高殿 そうすると大抵のクリエイターさんは“神は殺し合いをさせたいのか? じゃあ私ならこうする”って変化球を投げられる方が多い印象なんですけど、小松先生の作品はその中でもストレートで勝負されているのがいいんですよね。しかも、そのストレートがめっちゃ豪速球みたいな。
蛇蔵 そうそう。そしてキャラクターデザインが素晴らしいですよね。特にシンは大好きです。
高殿 素晴らしい。
蛇蔵 小松先生は作風的にすごく熟練の方のイメージがあるんですけど、フレッシュな作家さんなのですよ。
高殿 クライマックスの展開とか、もう熟練の技。
蛇蔵 まるで漫画家歴25年みたいな感じですけど、全然違いますからね! なのに完成度が恐ろしく高い。
高殿 もっとたくさん描いて欲しい。今回、描いてくださってありがとうございました。
おかざき真里氏の初ファンタジー。原稿が届いたときは悶絶もんぜつしたくらい(笑)
——そして第三話はおかざき真里さんの『風草譚』です。
蛇蔵 これは編集部からのマッチングですね。びっくりしました。
[第三話]風草譚ふうそうたんおかざき真里
『サプリ』や『阿・吽』などのおかざき真里氏による初ファンタジー作品。『傀儡戦記』の中で唯一の和風テイスト。領主である源水(げんすい)と武術隊見習いの娘・竜胆(りんどう)が互いに惹かれ合っていく。
おかざき真里氏より
「“すごい! ぜひ参加させてください!”とお返事してから気がつきました、私ファンタジーを描いたことがなかった。大慌てで先行の作家さまの作品を拝読しアシスタントさんに言いました“今回は絵で殴っていくスタイルです”。うまく描けているか甚だ不安ではありますが、深く広大な物語の一端を担わさせていただきまことに幸甚です」
高殿 私、個人的にずうっと昔からおかざき真里先生のファンなので、もう、もう、語ると長くなるので言いませんが、原稿が届いた瞬間、iPadを抱いたまま床の上でローリングしました!
蛇蔵 私も(おかざき真里先生が)決まりましたってメールをいただいたときに変な声が出ましたからね。
高殿 私個人としては担当の鍵田かぎたさんが悪魔に魂でも売ったんじゃないかって思ったくらい(笑)。宝くじが当たったレベルのリアクションで驚きました!
蛇蔵 連絡をもらったあと、すでに参加してくださっているメンバーの方たちに速攻でメールしましたからね。イメージ的には法螺貝ほらがいを「ぼえーぼえー」って吹き流して、「おかざき真里殿がご参戦~!」って。
——いくさの真っ只中に有力な武将が加勢してくれたみたいな(笑)。
蛇蔵 まさに。
高殿 普通だったら我々のような小国を相手にしてくれない大国が援軍でやってきてくれたような。
蛇蔵 それは「ぼえぇ~~」ってなりますよ。そこはもう呼んできてくれた使者の鍵田さんにどんだけ感謝したらいいのって。以前、忘年会で鍵田さんに私のビールを勝手に飲まれたことを許すくらいでしたよ。
——以前の因縁を洗い流すほどのサプライズだったんですね。それは良かったです(笑)。
蛇蔵 はい、これでチャラどころかお釣りがたくさんです。
——『風草譚』はシェアード・ワールドを楽しむ理想的なマッチングの作品だと思います。
蛇蔵 そうですね。こちらからは連載中の作家さんに声をかけづらいのですが、おかざき先生はタイミングが合って参加していただいたということで、まさに『傀儡戦記』においては理想的な参加です。
——内容も和ファンタジーで新鮮でした。
蛇蔵 シェアード・ワールドなんですけど、そのなかで完全に自分の作品を作っていらして、感動しました。
高殿 私はおかざき真里先生のオタクなので細かいことを言わせてもらいますね?
蛇蔵 大丈夫? 細かすぎない?
高殿 おかざき先生のヒロインの描写についてなんですが、先生の作品で、表情に三本の照れ線が入って、その横に汗が描いてあるシーン、わりとあるんです。台詞は無言で。
——今回だと「助けてもらったお礼に」のセリフの後でありましたね。
高殿氏お気に入りのカット。
高殿 そう! もう「出たーーーーー!」って思いましたからね!
蛇蔵 (笑)。
高殿 キター! OK! カモンイエス!って感じでしたっ。
蛇蔵 この高すぎるテンション、文字で伝えたいので大文字にしたい~(笑)。
高殿 もうこれで思い残すことはございません! 今年の運をすべて使いきりましたって気持ちになりました。ストーリーに関しては私からは何も言いません。もう、読んでください。読めばすべてわかりますから!
——おかざきさんがツイートされていましたが、意外にも初のファンタジーだったそうですね。
高殿 そうなんです。おかざき先生の初ファンタジーを我々が奪ってしまった……。感動で打ち震えました。
蛇蔵 私たちが奪ったわけじゃなくて(笑)。『傀儡戦記』の読者の方にくださったんです。とにかく美しくて、色っぽくて、魅惑的。ファンタジーっていうとRPGをベースにした洋ファンタジーが日本だと多いですけど、『傀儡戦記』に関して言えば、洋である必要はないというスタンスです。それを存分に生かした、おかざき先生の世界観、衣装、背景、そして物語に浸る幸せをどうぞ。
一気に書きあげた奇跡の原作。中田春彌氏の新たな一面も!
——1巻の最後を飾るのは中田春彌さんの『ゴーム』です。
高殿 中田春彌先生が参加してくださることが決まり、先生から作画に集中したいというお話がありました。そこで原作を私が書くことになったんですけど、まずは中田春彌先生に何を描いてもらうのがいいのか、というところから考えました。すでにオーソドックスな『満願』を描いたあとだったので、違うパターンの殺し合いのドラマにしようと構想を練り始めました。
——「モーニング・ツー」では連載の一番最初に発表された作品です。
[第四話]ゴーム(前編)原作 高殿円 漫画 中田春彌
かつて国を操り、数多の政敵を殺したユサ。彼自身もついに追放され、「ゴーム」という廃棄民の山に流され着いたところから物語は始まる。ゴームの郷の掟から二人の赤子を育てることになったユサは次第に“家族”を得ていくが……。後編は2巻に収録予定!
中田春彌氏より
「最初は壮大な物語に相応しい絵が入れられるか不安でしたが、一度描き始めると楽しくて、普段の仕事の合間を縫っては、夢中で作業を進めてきました。ですので去年、形になった時は嬉しかったです。制作過程も素敵な思い出になりました。(場違いな気がして若干恐縮しておりますが)声をかけていただき、とても幸せに思います」
高殿 『ゴーム』は本当に不思議な体験をした作品で。というのは最初から最後まで一字も直さずに原作を書き終えたんです。普通はある程度まで書いたら、戻って修正してというのを繰り返すんですけど、それが一切なかった。そんなことは私のキャリアでも初めてのことで。
——かなりの長編ですよね?
高殿 漫画にして106ページ。「私は実直だった」というナレーションから最後のオチまで全部決まっていたかのように書き上げてしまったんです。こんな経験はきっと後にも先にもないんじゃないかなあ。普通はお話をんで揉んで揉み倒すんです。とりあえず一番搾りのまま出したら、それがおいしかったという。自分でも初めての体験でした。
蛇蔵 高殿先生から原作を読ませてもらって、いつもならいくつか調整するのですが、『ゴーム』に関しては特殊アイテムに関してちょっと手を入れただけですね。それよりも中田春彌先生からネームが届いたとき、100ページぶんあって、「先生はこれを描かれるんですか?」って震えました。
高殿 シナリオが長いので中田先生のほうで削られるかな、と思っていたんです。
蛇蔵 そう。カットするのもおまかせしていたんですが、中田先生はすべてのシーンを絵にしてくださいました。
——登場人物も多いし、作画の量としてはかなりのボリュームですよね。
蛇蔵 私も自分でマンガを描いていた時期があるのですが、描くとなるとどうしても“枠”を作ってしまうんです。壮大な歴史絵巻を描きたくても、自分では描けないので躊躇ちゅうちょするんです。だけど、中田先生が描かれるんだったらなんでもできるな、と。信頼して自由に物語を紡ぐことができる。それって作品にとってはすごい幸せなことだなあと実感しましたね。
——『ゲーム・オブ・スローンズ』のスタッフで映像化して欲しいです。
高殿 そう思いますね。
蛇蔵 海外で映像化するとか、そういう未来があると面白いですよね。そんな可能性もある世界観だと思っています。
高殿 どこでロケをしてもいいしね。
蛇蔵 そうなんですよね。中田春彌先生の説得力の絵は国を超えて、どなたでも魅了すると思うので、日本語だけじゃなく、いろいろな国の人に見てもらいたいと思っている作品です。
——作画に関してのリクエストは?
高殿 受けていただいたときから主人公には悪人を描いていただこうって思っていました。中田先生のファンの方は『Levius ―レビウス―』のファンの方で、スチームパンクが好きな方が多いと思うので、それとは違うテイストの作品を見たかったんです。それで、体温の熱さが伝わるような話になりました。よく家族のきずなっていいますけど、絆って何を教えるか、伝えるかだと思っています。中田先生からネームが届いたときは、「ははーっ」と圧倒されましたね。拝みました。
蛇蔵 ネームと言うか、下書きのような濃密さなんですよね。
高殿 これは私の個人的な感覚ですけど、『ゴーム』は中田春彌先生のものになるために生まれてきた物語だったんだなと。一気に原作を書ききった過程も含めて、もう、娘を嫁に出した父親のような気持ちで「幸せになれよ」と思っています。この作品のお手伝いをできて良かった。
果たしてシーズン2はあるのか? 参加作家さんも大募集!
——単行本として改めて作品が並ぶと、どの作品も読み応えがあって、それがまさにアンソロジーの醍醐味だいごみですね。
蛇蔵 はい。もしこれを読んでいるのが作家さんだったら、ぜひ参加を検討していただけると嬉しいです。好きな作家さんをきっかけに読まれた方には、他の作家さんの気になる作品も読んでくれたら嬉しいです。『傀儡戦記』がいろいろな作品、作家さんと出会える場になればいいと思っています。
高殿 一番の理想は、既存の作家さんだけじゃなく、これからクリエイターになりたいと思っていらっしゃる方に使ってもらえるといいな、と思っています。どんなことでも何かを訓練する時って模倣から始まるじゃないですか。『スター・トレック』も最初のころは素人向けのシナリオ公募がありましたし、そこから実際に使わたりもしています。
蛇蔵 それこそ『傀儡戦記』ってタグをつけては欲しいんですけど、Twitterとかpixivとかでオリジナル作品を投稿してくださっても構いません。世界観設定に関しては同人フリーです。なのでみなさんのなかでこのシェアード・ワールドをどんどん活用していってください。
高殿 私だったらこんな設定の物語にするというのをどんどん発信して欲しい。そういう作業がクリエイティビティの準備運動になったりするので。『007』も監督や脚本、俳優さんが代わりながら長く愛されていますけど、ああいう作品の続き方って幸せだと思うんです。私自身、こういう『007』を作る、みたいなところから自分の作風が始まった気がしますし。なので、『傀儡戦記』を手にとってくれた方で、表現したい方には可能性のドアを開けておきますので是非、利用していただけたら嬉しいです。
——今後の展開など、お二人はどれくらいまで考えられているのですか?
蛇蔵 まだ描けていない設定や裏設定もかなりあります。
高殿 描いていない時系列もあるし、我々のなかでは辻褄が合っていて表に出していないことがまだまだあるんですよねえ。
——ぜひシーズン2が読みたいです。
蛇蔵 まずは今回のコミックスと、次の巻の刊行は決まっています。単行本を読んで共鳴した作家さんが参加して、さらに続くといいな、と思っています。みなさんがいろいろなかたちで応援してくれたら嬉しいです。
高殿 今後、どうなるかは私たちも楽しみにしています。 
文=高畠正人
『傀儡戦記』①巻絶賛発売中!②巻は2021年冬頃発売予定!

愛するものたちよ、殺し合え。漫画界の気鋭が集結する超巨弾アンソロジー!

九つの火山と川によって、九つの国に分かたれた世界。繰り返される噴火と、鉱毒を含み氾濫する河川。

そんな不毛の大地で、人々は一国の安寧を担うとされる「大樹王」の出現を待ち望む。

候補となるのは「神器」に選ばれし「王の器」の二人。一人は王に成り、一人はその一生を王に捧げる。

共通の世界で繰り広げられる、数奇な運命。

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