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【え!? 親戚!?】 『ランド』完結記念《漫画家 山下和美╳小説家 絲山秋子》特別リモート対談 【え!? 共通点いっぱい!?】

20/09/18
5年半におよんだ『ランド』の連載完結と、単行本最終⑪巻の発売開始を記念して、作者の山下和美さんと、実は山下氏とは遠い親戚関係にある小説家の絲山秋子さんの対談企画が実現しました!
話題は『ランド』の作品やキャラクターから、今の社会にまで広がり、お二人の共通点と個性が出た楽しい対談となりました。ぜひご覧ください!
対談は、講談社貴賓室に山下さんをお招きし、群馬県のご自宅の絲山さんとリモートでつないで実施されました。(左から山下和美氏、絲山秋子氏)
絲山さんの文章に、なにか近いものは感じたんですよ(山下)
——実はお二人は遠い親戚だとか。
絲山秋子(以下、絲山) 母方の祖母の親戚だと母から聞いて、すごく嬉しく思ってました。
山下和美(以下、山下) いえいえこちらこそ、私もすごく嬉しいです。こんな形でお会いできるとは。私の場合はですね、10年くらい前のことなんですけど、家系図を作っている親戚のおじさんがいまして。それで知りました。
絲山 家系図、もしあったら後で一枚いただけますか!?
山下 ほんとですか? コピーします(笑)
絲山 山下さんは大病をなさって。そしてまたお家をお建てになりましたね。私も双極性障害の療養中に文章を書き始めて。また私も一人で家を建てて住んでいて。お会いするのは今日が初めてなのに、なんだか同じというか似たようなところを感じてしまって。
山下 そうですね! 私も同じです(笑)。私も絲山さんの文章をちょっと読みまして、なにか近いものは感じたんですよ。私ねぇ、実を言うと子供の頃国語の点がすごく悪くて。思ってることをなかなか文章にできないから、絵で補っているんですよ。絲山さんは考えてることを全部文章化できてるなっていう感じがして、すごいなと。私にこの能力がちょっとでもあれば……と羨ましく思っていました。
小説って何年か先の未来と繫がってる気がしてるんですよ(絲山)
絲山 山下さんがお描きになる作品ってすごく長い連載ですよね。『天才柳沢教授の生活』も『不思議な少年』もそうですし。『ランド』もこれほど長く連載を続けていくのって私には想像もつきません。最初から終わりの方まで見えてるんですか?
山下 いや、途中で180度変わるところもあります。新しいキャラクターが出るとまた話が変わってきます。それでラストはどうするかっていうのを考え直していく。この繰り返しみたいな感じですね。
絲山 今回の『ランド』でも途中から変わったところっていっぱいあるんですか?
山下 ありましたね! いろいろキャラクターを出していくうちに、「こう終わろう」「ああ終わろう」っていうのがどんどん変わっていきまして。だから最後、単行本2巻分くらいになってから大体こんなラストにしようかっていうのが決まりましたね。
絲山 『ランド』は終わりの方になると時間の進み方が、どんどん加速するように読んでて感じられたんですけれど。
山下 あぁ! 多分、最初は地固めで悩んでたんですよね。で、終わりの方はもう「あっ、これだ!」っていう、キャラクターが全部揃ってて「さぁ動くぞ」っていう感じだったので。だから終わりの方に行くとやっと本調子になったという感じなんじゃないかと(笑)
絲山 良いスピードですよね、最後の方。でもそのスピードが速くなっていくと楽しいんだけど、これはもう終わりに近づいているから早いんだなって思うと淋しかったです。
山下 そうですね。ありがとうございます。確かにそのとおりでございます(笑)
絲山 時間については前からお聞きしたいことがあるんですが。私の個人的な考えでは、小説って何年か先の未来と繫がっているような気がしてるんですよ。山下さんの、『ランド』も『不思議な少年』にも近未来的な雰囲気があります。山下さんには未来が手に取るようにわかると思ってしまいます。未来って近いですか? 山下さんにとって。
山下 未来ですねぇ。なんと言ったらいいのかなぁ。私はねぇ、基本的に死にたくない人なんですよ。何としてでも生きたいっていうタイプの人間で。ですからこの先を見てみたいっていう意識がすごく強いんですよね。そういう意識で過去と未来を描いて。だから『不思議な少年』に近いかもしれないですね。
絲山 あっ……わかります。『不思議な少年』は俯瞰で見ているような雰囲気でした。
山下 そうですね。ですからなんとなく今世界で起きてる状態も、これから先の状態も、絶対私、悲観はしないんですよ。ただ見ていたいっていう意識がすごく強くって。たとえ地球が破滅するにしても見ていたい。
絲山 それは私も同じです。良くなるから見たいんじゃなくて、悪くなっても見ていたいっていうのはありますね。
山下 そうなんですよ。今の世界に関しても割と冷静に見てるっていうか。悲観は全然していなくて。だめになったらだめで、それなりのことを考えていたいなっていうスタンスですね。

山下和美(やました・かずみ)

1959年生まれ。北海道出身。1980年、集英社「マーガレット」誌上にてデビュー。2020年7月、講談社「モーニング」にて『ランド』の連載が完結。

絲山 『ランド』を連載されてる間にどんどん現実のほうが後から似てくるようなことがいっぱいあったと思うんです。どんな感じで受け止められてたんでしょうか?
山下 割と冷静でしたよ。まぁこうなるんだろうなっていうような。割と淡々と見ていたような感じはありますね。
絲山 先がお見えになってるんじゃないかな?って読者としては思ってました。
山下 そう言っていただけるとすごく嬉しいです(笑)。こういうパンデミックが起きたら、何となくこうなるんだろうなっていうのは予想していた。で、それを形にしたらというのが、『ランド』なんです。でもそれって過去からずっと続いてきたことのその延長でしかないっていうか。少し先を見ながらやっていきたいなっていう意識ではいますね。
絲山 わかります。ちょっと前に出した『御社のチャラ男』で、いろんな可能性を考えて描いているとどうしてもパンデミックだったりとか、オリンピックがなくなる可能性とか、そういうこと思いつくんです。ただそれを絵で見せていただくと、山下さんの目を通して具体的に見せていただけているような気がして。そういう意味では今回の『ランド』は何か乗り物みたいな感じがしました。
キャラクターは直接会えないけれど連絡を取ろうと思えば取れる友達(絲山)
山下 話作ってるとその流れで思ってることが出てくるんですよね。キャラクターを動かしていくうちにスッと出てくる感じが。
絲山 私もそうです。私は何も知らないんですけど、登場人物が教えてくれるとか、登場人物の話を聴いて納得する感じです。私自身は、ただ登場人物のところへ行って「ちょっとお話聞かせてください」とお願いするイメージですね。

絲山秋子(いとやま・あきこ)

1966年生まれ。東京都出身。2003年、『イッツ・オンリー・トーク』で第96回文學界新人賞を受賞し小説家デビュー。2020年『御社のチャラ男』を講談社より刊行。

——お二人が描くキャラクターはすごくリアルです。描く上で気にされていることはありますか?
絲山 自分で作ってるっていう意識はあんまりないんです。直接会えないけれど連絡取ろうと思えば取れる友達みたいに考えてます。実在の人間とそんなに区別していないですね。こちらから電話をかければ話すことができるとか、メールを書けば返事が帰ってくる、そのくらいだと思っていて。時々ひょっこり訪ねて来てくれることもあります。
山下 私はたとえ捨て台詞残した人でも、その後どうするんだろう?ってすごい考えちゃうんですよね(笑)。家に帰るとどうなのこの人?って。そういうことばっかり考えちゃって。
絲山 だからすごく脇役みたいな感じの方でも、1人もおろそかにされてないですよね。たくさん人が出てくるところでも、本当に端っこの方にいる人までちゃんと生きてる感じがしますもの。それこそ本当に山下さんの愛情なんだなと思います。
山下 キャラクターを全部大事にする感じは『御社のチャラ男』にもバシっと出てますよね。
絲山 1月に『御社のチャラ男』が出たんですけれど、読んだ方から、「チャラ男はZOOM会議とか好きなんじゃないの?」とか、「今あの会社どうなってるんだろうね?」って言われました。私としては今連絡取ってないけれど、どっかでなんかやってるんだろうなっていうふうに思ってます。
次に書こうと思ってるのは古墳の時代ですね(絲山)
絲山 『不思議な少年』はまだまだ続くんですか?
山下 読み切り形式なんで描こうと思えば。私のやる気さえ出てくれれば(笑)。ふとしたことから浮かんだりするんで。
絲山 じゃあやっぱり時々お会いになる友達みたいな感じなんですかねぇ。
山下 そうそうそうそう。あと時代の変わり目とかにスッと出てくるみたいな感じで行けたらいいなと。
絲山 次の作品のこともお考えなんですか?
山下 そうですね。割と今度は身近な話で、自分の身に起こった話っていうのを元にして、ちょっと変形して描こうかなって思ってます。
絲山 じゃあ本当に現代の山下さんに近い。
山下 そうですね。最近現実に起こった話が結構面白かったんで、それを元にやってみようかなと。
絲山 そうですか! そういうところも自由自在ですね。うんと遠くに行けたり、近くの愛すべき人々をしっかりとお描きになったり。
山下 そうですね。遠くに行くと『柳沢教授』みたいなものに近づきたくなって、その上でまた遠くに行ってみたいな、と。そこらへんが漫画の楽しいところかなと思っていますね。絲山さんは次の作品とか考えられてますか?
絲山 私は今『逃亡くそたわけ』の続編を連載していますが、次に書こうと思ってるのは古墳の時代ですね。私が群馬県に住んでいて身近にたくさん古墳があるんで(笑)。高崎から近い榛名山の噴火のことも書きたいなっていうのはあります。ずっと前から温めているんですが、こういうところでお話しするとやらなきゃいけないなっていう気持ちになるかなって(笑)
山下 ぜひ読みたいですね!
信頼っていうのは自分の意識で作り上げるもの(山下)
絲山 今回、『ランド』で2人のアンを通して、信じる/信じないってなんだろうと考えさせられたんです。すごくその信頼っていうのが大きなテーマだったと思うんですけど、『ランド』が始まる前と最終回のあとで社会も変わってきています。そのなかで山下さんは「信頼」についてどういうふうにお考えですか?
山下 そうですね。信頼……うーん……難しいなぁ。私自身がね、変な言い方かもしれないですけど、不思議なほど迷ってないんですよね。私、おめでたい性格なのかもしれないですね。
絲山 ぶれない方なんですね。
山下 昔は悩んでたのかもしれないんですけども、何度も同じことを迷ってるうちに、そういうのを客観的に見るようになったから悩みと思わなくなってきたのかもしれないですね。だからすごく身近な人間とは信頼関係続いてますし。自分が思った以上に編集さんとの間に信頼関係はありますし。だから、信頼っていうのは自分の意識で作り上げるものなんだなっていうのはなんとなく感じていて。信頼してる人は割と逆にちょっと痛いことを言ってくれたりとかしますし。すごく身近な話になっちゃったんですけども。それをどう受け止めるかっていうのは自分次第だなっていう感じがしてまして。そういう意味では昔よりは今のほうがいい意味で色んなものを信頼できるようにはなったかなという意識はありますね。
絲山 素晴らしいと思います! ありがとうございます! 「淡々としている、ちょっと俯瞰的に世の中を冷静に眺めていられる」っておっしゃることとピタッと繫がりますね。
山下 そうですか? ありがとうございます!
絲山 ずっとずっと描いてください! 楽しみにしてます!
山下 頑張って長生きします! まだねぇ、直接お会いしたことがないんで。次、親戚の集まりがあったときは是非! 是非いらしてください(笑)。私もなるべく参加するようにしますんで(笑)
絲山 よろしくおねがいします(笑)。本当にお話しできて嬉しかったです。今度は直接お目にかかることを目標にがんばります(笑)

親戚でありながら、一度も会ったことのないお二人。不思議とキャラクターへの考え方、社会の見方に共通点がありました。絲山さんが書く古墳の物語、山下さんの次回作をぜひともお楽しみに!
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