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【医学的に徹底解明!】 「ととのってみたい」と願うあなたに贈る! サウナで「ととのう」は、ウソ? 本当?

21/01/21
日本でただ一人の「サウナ大使」・タナカカツキ氏が、最強に気持ちいいサウナの入り方を描く『マンガ サ道』。このマンガでおなじみの「ととのったー!」と昇天するシーンに憧れ、“サウナ沼”に陥落した人は数知れず……。
日常生活では決して得られない、サウナ浴特有のこのスペシャルな恍惚感の正体は何!? 俺の、私の、ワシの体で何が起こっているの?
そんな皆さんの「知りたい」にお応えして、サウナーでもあり、神経系を専門分野とされる加藤容祟医師にそのへんのことを伺ってみました!
※本記事は、「モーニング」2020年41号に掲載されたものです。
 よく言われる「ととのう」とは、医学的にはどんな状態?
加藤容祟(以下、加藤) サウナ好きの人はみなさん、「ととのう」とよく言いますよね。じつは僕、最初はその言葉をうさんくさいと感じていたんですよ。「話を盛りすぎなんじゃない?」と思って。ところが笹塚のマルシンスパに連れて行かれてサウナを体験してみたら、確かにお風呂では体験できない感覚を味わったんです。それからサウナに興味を持って研究を始めました。「みんな『ととのう』という言葉を使っているけれど、体験している現象はそれぞれバラバラかもしれない」と思って、30人のボランティアの方たちのサウナ前・サウナ後の状態を調べてみたんです。そしたら、だいたいみんな同じような状態だった。
ではサウナに入ると、どういう状態になるのか。これは冬におこなった調査なのですが、サウナに入ると最初は「暖かくて気持ちいい」と感じて、副交感神経(リラックス・休息状態)が優位になります。でもサウナの暑さは人間の体にとって負荷だから、自律神経がそれに適応しようとして、交感神経(緊張・興奮状態)が活発化し、血中のアドレナリン(興奮物質)の濃度も上がっていきます。暑さに限界が来て、交感神経がMAXになったところで水風呂に入ると、最初は冷たいからここでも交感神経が活発になります。でも上がって外気浴をしていると、ホッとして今度は副交感神経が優位になる。自律神経は反応が早いから、交感神経から副交感神経へは一瞬で切り替わるんですけど、血中のアドレナリンは体中をめぐっていて、肝臓で代謝されてだんだん効果がなくなっていくので、半減するのに2分くらいかかります。
つまり、水風呂から上がった直後というのは「副交感神経によるリラックス」と「アドレナリンによる興奮」が共存している状態なんです。リラックスと興奮が共存するのは、日常ではまず起こりえない異常な状態です。これが「ととのう」の正体だと思われます。だから最大限に「ととのう」ためには、この2分間がとても大事になってきます。
「ととのう」と、まずアルファ波が正常化してリラックスするのですが、ベータ波にも興味深い動きが出てきます。ベータ波は活動しているときに活性化するものだから、サウナに入ってじっとしていると、アルファ波が活性化して、ベータ波は落ちていくのが普通だと思いますよね? でも「ととのう」と、脳の一部分……発想やインスピレーションを司る部分だけ、ベータ波が活性化するんです。もう一つ、デルタ波というのもあって、これは人間の意識が下がると反比例して上がるものなのですが、「ととのう」と、このデルタ波は減弱している…つまり脳は覚醒した状態になっている。まとめると、脳科学的に「ととのう」とは、「リラックスしているんだけど、眠いわけではなく頭はスッキリと覚醒していて、発想が活発になる状態」のことだと言えます。
 ととのいやすいサウナの条件は?
加藤 「自分が好きなサウナに入る」というのが一番の条件なので、そこは個人の好き好きでよいと思いますが、ドライサウナとウェットサウナで言えば、一般的にはウェットサウナのほうが乾燥しにくいし、蒸気の対流もあるので体が効率よく温まるということは言えると思います。ちなみに僕が好きなウェットサウナは、錦糸町のニューウイング、帯広の北海道ホテルです。
 サウナ室での最適な時間がわかりません。
加藤 水風呂は「17度の温度に1分くらい」というふうに時間で言えますが、サウナについては、なかなか最適な時間を言えないんです。人によっても違うし、同じ人でもその日の体調によって変わってくるから。僕がおすすめしたいのは、脈拍で決める方法。自律神経の状態がいちばん反映されやすいのが心拍数なんです。サウナは軽いエクササイズくらい心臓に負荷をかけるので、あらかじめ軽いエクササイズをしたときの心拍数を測っておいて、サウナでその心拍数になったら出ればいい。僕は樹脂製のスマートウォッチを着けて入っていますが、手首に指を当てて脈拍を測る方法もあります。軽い運動をしたときの脈拍が128なら、BPM(※テンポのこと)が128の曲を脳内で再生して、そのリズムとぴったり合えば、それが出るタイミングだということになります。
 水風呂に抵抗がある人はどうしたらいいですか?
加藤 水風呂に抵抗がある人って、体が十分に温まっていないことが多いんです。本当に体が熱かったら、水風呂が刺激的なのは最初だけで、あとは気持ちよく感じるはずなので。だから水風呂に抵抗がある人は、まずサウナで十分に温まることを心がけてください。水風呂で最初に冷たいと感じるのは足を入れた瞬間ですが、足って意外と温まっていないことが多いんですよ。サウナ室での温度は頭と足で15度くらい違うので、あぐらをかいたり、足をのばすなど工夫して、全身くまなく温まってから水風呂に入るとよいと思います。
 温泉とサウナでは、どんな効果の違いがありますか?
加藤 温泉は副交感神経がゆるやかに上がるし、水圧のマッサージ効果もあるので、ゆっくりリラックスするのに向いています。サウナは負荷をかけ自律神経に反動をつけて深くリラックスさせるものなので、温泉とはちょっと違いますね。純粋にリラックスしたいだけなら温泉でもよいですが、「リラックスしているのに頭がシャキッとする」という効果を味わいたい人にはサウナをおすすめします。
 ビジネスマンにサウナをオススメしたいポイントは?
加藤 先ほど説明したように、「ととのう」ことで脳が覚醒してインスピレーションを得やすくなる、というのは大きなメリットです。
短時間でコンディショニングができることもその一つ。ビジネスマンは常にストレスにさらされてイライラすることが多いと思いますが、じつはストレスは自分では認識しにくいんです。常にストレスを感じていると、だらだらと交感神経を使い続けて、だんだん自律神経の機能が落ちていく。でも自分ではその自覚がないまま、さらに機能が落ちていって、機能不全になり具体的な症状が出てやっと気付く…ということになってしまう。サウナに入ると、だらだらした負荷ではなく、ドカンと強い負荷がかかって自律神経がリセットされます。それでリラックスしていると、自分の正常な状態……ゼロの状態がわかるんですよね。だからサウナに入って「あれ? すごくスッキリした!」と思ったら、かなり自律神経の機能が下がっていた証拠かもしれない。そうやって自分のコンディションを把握できるというメリットがあります。
余談ですが、僕は毎日サウナに通って毎日リセットしているので、最近では「ととのう」の快感はあまり実感できていません。ちゃんとした手順でサウナに入っても「ととのう」の状態にならないのは、そのぶん自律神経が健全な証拠だと言えるのですが、それだと物足りない人がシングル(水温が1ケタの水風呂)のようなエクストリームな刺激を求めるのかもしれませんね。エクストリームな刺激は依存症になりやすいので、医学的にはあまりおすすめしませんが……。
 サウナは美容にも効果がありますか?
加藤 ヒートショックプロテインというたんぱく質があります。体は異常を察知すると体温が上がり、そのあと下がって治りますが、そのときに体を修復してくれるたんぱく質があって、それがヒートショックプロテインなんです。サウナ室では皮膚の表面が40度近くに達するので、ヒートショックプロテインが活性化して肌を修復してくれます。もう一つの美容によい効果は、睡眠の質が改善されること。睡眠は身体すべての健康に関わってきますから、いろいろな面で美容への効果が期待できます。
 サウナ室は密室で換気があまりない状態ですが、新型コロナウイルスの感染対策は大丈夫でしょうか?
加藤 室温が70度の状態だと、ウイルスが5分で感染性を失うという論文があります。ということは、一般的には新型コロナ対策として換気が推奨されていますが、サウナ室に関しては、換気よりも温度を上げるほうがより強い感染症対策になると言えます。むしろ中途半端に換気して、サウナ室の温度を下げてしまうとウイルスの不活性化に時間がかかる上に、利用者が長くサウナ室にとどまることになり逆効果になってしまう。ソーシャルディスタンスを取る、マスクできない代わりに私語を慎む、などの対策も重要です。そして、もちろん脱衣場など、サウナ室以外の場所では換気を含めて通常通りの感染症対策をしておいたほうがよいです。このように正しい知識を持ってきちんとコロナ対策を行っている施設であれば問題ないと思います。 🛁
インタビュー・記事=前田隆弘

加藤容祟(かとう・やすたか)

慶應義塾大学医学部腫瘍センター特任助教・日本サウナ学会代表理事(通称サウナ教授)。北海道大学医学部医学科を経て、同大学院(病理学分野専攻)で医学博士号取得(テーマは脳腫瘍)。北海道大学医学部特任助教として勤務したのち渡米。ハーバード大学医学部附属病院腫瘍センターにてすい臓がん研究に従事。帰国後、慶應義塾大学医学部腫瘍センターや北斗病院など複数の病院に勤務。専門はすい臓がんを中心にしたがん全般と神経変性疾患の病理診断。

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