【『ワールド イズ ダンシング』絶賛放送・配信中!】 TVアニメ好評記念! 三原和人(原作者)╳黒柳トシマサ(アニメーション監督)特別対談
26/08/20
『宙飛ぶバイオリン』連載中の三原和人氏が、後に「能」を生み出し世阿弥と呼ばれることになる少年「鬼夜叉」を描いた、中世ダンスジュブナイルストーリー。
その待望の映像化となる
TVアニメ『ワールド イズ ダンシング』が、ただいま
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アニメの好調を記念して、原作者の三原和人氏と、『バクテン!!』や『舟を編む』といった作品で知られ、本作で監督を務める黒柳トシマサ氏との特別対談が実現!! 原作をどう取捨選択し、能の動きをいかにアニメへ落とし込んだのか、制作の舞台裏を語り合いました。
この対談を読んで、クライマックスに向かってさらに盛り上がるアニメ『ワールド イズ ダンシング』を引き続きお楽しみください!
※本記事は、8月20日発売の「モーニング」38号に
掲載されたインタビューのウェブ完全版です。
──原作完結から4年後のアニメ化となったわけですが、完成した作品への率直な思いをうかがえれば。
黒柳トシマサ(以下、黒柳) 私のところにアニメ化の話が来たのは、ちょうど原作の連載が終わったタイミングだったと記憶しています。私自身もその頃、前作である『バクテン!!』を作り終えたばかりでした。燃え尽きたような感覚があったわけではないのですが、今後自分は何をどう表現するべきなのか、思い悩んでいる時期でもありました。正直なところ、次作を作るためのエンジンがかかっていなかったんです。
そこにやって来たのが、今作のプロデューサーである溝口侃さんでした。スタジオにもじゃもじゃ頭で現れ「世阿弥の少年時代を描いた作品があります。一緒にアニメを作りませんか」と。彼が持ってきたのが原作でした。
一読して「自分が描きたいと思っていたものがそこにある」そう思えるほどに、のめりこみました。監督として、ではなく一人の作り手として『ワールド イズ ダンシング』のアニメーションを作りたい。そう思わされました。
特に心を動かされたのが、原作の随所に出てくる「世界を変える」という言葉です。そう言えばアニメーターなりたてだったころの自分も「アニメーションで世界を変えるんだ」と所かまわず言って回っていたな、と思い出しまして……。
とはいえ業界歴も20年ほどになるなかで、心のどこかで「世界を変える」と思ってはいても、言葉を表には出さないようになっていました。だけどこの作品だったら改めて「アニメーションで世界を変える」と大きな声で言えるのではないか。そんな気持ちになりました。
今作は制作スタジオが、溝口さんの所属するサイピク(石神井公園)に移り、環境も一新されました。改めて新人監督に戻ったような気持ちで作ったつもりです。
三原和人(以下、三原) 出来上がったアニメーションを見て、『ワールド イズ ダンシング』を描いてよかった、と救われる思いがしました。漫画家は一人で作業をすることが多い仕事です。だからかはわかりませんが、どこか自分の作品が「誰かに届いている」と実感しにくいところがある。
ですが、アニメを見てみると自分が描いていて、つらい思いや苦しい思いをしながらなんとか形にした部分が現れていたんです。心を砕いて、なんとか読者に届けようとしていたことが伝わっていたんだな、と思えました。
黒柳 三原先生が描いた原作には無駄がない。どのキャラクターの言葉一つとっても読み手の心に何か引っかかるものがある。アニメーションにする際、当然ながら原作をそのまま再現することはかないません。ですから、原作のどの言葉を残し、どの言葉をそぎ落とすかに苦心しました。
三原 そうでしたか。でも思ってみれば、すでに出来上がった原作ありきの作品は難しいのかもしれないですね。揺るがしえないものに見えてしまうというか。とはいっても、作った僕からすると至らぬまま出すしかなかったという部分が、実はたくさんあったな、と思っています。
アニメでは原作のシーンやセリフをそのまま使っていただいた箇所もありましたよね。実はそのなかに原作を描いていたときに「ここは削ったほうがよかった」「野暮なことを書いてしまったかな」と思っていた箇所がいくつかあったのですが、ちゃんと削られていた。さすがだなと。
黒柳 ありがとうございます。ただ、アニメづくりもマンガづくりに通じる部分があるのではないかと思います。作っている最中は「これしかない」と思っているけれど、作り終わってみると気になるところがたくさん出てくるものです。
TVアニメ『少年ハリウッド』シリーズにて初監督。ほか、TVアニメ『舟を編む』、劇場アニメ『思い、思われ、ふり、ふられ』、TVアニメ・劇場アニメ『バクテン!!』シリーズ等を監督。
アニメ化してもらったことで変わった。「整った」(三原)
──先ほど三原さんのお話にも少し出ましたが、アニメ版では試写会で上映された第1話・第2話だけでもだいぶ原作から話の流れや登場キャラクターが変わっている部分がありますよね。「ここは残しておこう」「ここは変えるべきだ」といった判断を黒柳さんはどのように下されたのですか。
黒柳 まず、私たちが制作の現場に入った段階で原作は完結していました。ですから「最後のシーンをこれにするなら、前半にこういった要素を足さなければいけない」という枠組みが作りやすかったんです。
そのうえで、私が原作を読んだときに感じたことを一つの判断材料としていました。
主人公である鬼夜叉は幼少期、父の観阿弥が奈良で開いた大和猿楽観世座で暮らし、年を経てからは足利義満の庇護を受け、京都で過ごします。
鬼夜叉はひとところにとどまっていることが多いわけですが、そんな彼に、さまざまな登場人物たちが出会い、そして通り過ぎていく。どこかロードムービーのような趣のある作品だな、とも感じていました。
その良さをなくさず、アニメーションとして伝えるために特に力を入れたのが、アニメオリジナルのキャラクターである石也の造形です。鬼夜叉の視点だけでなく、彼の視点も入ることによって、鬼夜叉の周囲を過ぎ去っていった人物たちを石也が背負ってくれるのではないか。そんなことを考えながら作っていましたね。
三原 なるほど。僕はアニメーションを最後まで見てみて、原作とは違った温かみのようなものを感じました。作り手としては先の見えないまま進んでいったような感覚がありまして。先ほどは、無駄のない作品と言っていただいたのですが、振り返ってみると、かなりいびつな形になったのではないか、という気がしているんです。それがアニメ化してもらったことで変わった。「整った」という言葉が適切かはわかりません。ただ、一つの正解ができたのではないか。そう感じました。
福井県出身。『はじめアルゴリズム』(全10巻)で漫画連載デビュー。その後、世阿弥こと鬼夜叉の半生を描いた『ワールド イズ ダンシング』(全6巻)を連載。現在『宙飛ぶバイオリン』を連載中。
鬼夜叉はトライアンドエラーをしたはず。そのようなことを考えて作っていった(黒柳)
──そもそも能(猿楽)、そして世阿弥、しかも少年期をエンタメ作品にする、という取り組み自体が極めて困難なものだったように思うのですが、原作連載時、三原さんはどのように難しさと向き合っていましたか。
三原 僕はそもそも歴史をまったく知らないところから制作に入りました。そのうえで大変だったのが猿楽の演目をどう漫画で表現するかです。口語訳で書き直してみて、セリフで言ってもらったほうがよいのか、それとも歌うのか、いろいろなパターンを試しました。
原作の連載中は探り探りでしたね。アニメの話が来たのは連載中だったのですが、正直なところ高みの見物と言いましょうか「これは大変だぞ」と思ってもいたんです(笑)。
黒柳 そうですよね。私自身、初期の段階で、アニメーションでそのまま能を表現するのは難しそうだと感じていました。実は最初は単純にひとつの演目をまるごと放送してみるか、とも思っていたんです。
でも、どうもそうではないな、と思うようになりまして。
三原 そうなりますよね。僕も原作では「(演目を)もう、やっちゃったほうがいいんじゃないかな」と思ったこともあったのですが、違うなと思いましたね。
黒柳 制作時には能を観劇する機会を幾度かいただきました。自分が見たときに何がわかりにくかったかを考えてみたんです。
まず、言葉がわかりにくい。そして能はゆったり動きますが、アニメで同じように動かすと、これもわかりにくい。
であるならば、「猿楽」がいかに「能」というものになっていくか、その過程を演目にすればよいのではないかと思ったのです。
おそらく、鬼夜叉はトライアンドエラーをしたはず。なかには行き過ぎたがゆえの失敗もあっただろう。そのようなことを考えて作っていきました。
そのなかでも演じられた声優の皆さんには大変な思いをさせてしまったかなと思う部分もあります。たとえば演目の一つである「卒都婆小町」を演じるシーン。ラップバトルに見立てた形にしました。皆さんに歌い手も担当してもらったのですが、ものすごく早口で……。
三原 見ていて、よく舌が回ったな、なんて思いました。とにかく「卒都婆小町」はすごい絵になっていますよね。
黒柳 鬼夜叉はこの「卒都婆小町」のような行き過ぎた表現も一度はやってみて、そして境地にたどり着いた。そのような流れに見えるといいなと思って演出したつもりです。
アニメ『ワールド イズ ダンシング』第1話より
同第2話より
同第2話より
三原和人・講談社/『ワールド イズ ダンシング』製作委員会
──振り付けに関しても能楽師の先生だけでなく、コンテンポラリーダンサーの方々もキャスティングされていますよね。どのような狙いが。
黒柳 たとえば、白拍子の踊りは、コンテンポラリーダンスもやっておられる川村美紀子さんに入っていただき、いわゆる現代舞踊として舞ってもらいました。
一方で鬼夜叉の舞の所作は能に準じて作ることにこだわりました。ですから、監修には津村禮次郎先生(※ シテ方観世流能楽師、重要無形文化財保持者)に入っていただきました。
アニメーションにする上での創作はもちろんありますが、能のなかにある動きにこだわっていただいた。ただ、いかに現代の価値観に寄せるか、といったことはあまり考えていませんでした。どうすれば伝わるかを模索した結果、完成した作品のようになったというか。
とはいえ、題材は歴史の深い「能」です。アニメだけですべてをわかりやすく表現できたとはもちろん思っていません。本音を言えば「わからないなら勉強して」と思ってもいます(笑)。これは冗談ですが、小説や映画を見た際にその題材に興味を持って、辞書を引いてみたり、関連する書籍を手に取って調べ始めたりすることがあると思います。本作を見た方も同じように感じてほしいな、という思いは込めました。
白拍子が躍っているシーンは、漫画家として率直に嫉妬しました(三原)
──見どころばかりだとは思うのですが、お二人が「息をのんだ」というシーンや表現はありましたか。
三原 「すごいな」と思ったシーンをあげてほしい、と言われると、もうほとんどすべてなのですが、特に印象的だったシーンがあります。
まだ完成する前に、制作途中の白拍子が踊っているシーンを見せてもらったんです。まだラフの段階ではあったのですが、荒々しさがさまざまな画材を通して表現されていて、漫画家として率直に嫉妬しました。僕よりいいものを作られるのは困るな、と。
黒柳 私はキャラクターデザインを手がけた佐々木啓悟さんのティザービジュアルですね。佐々木さんにお任せの状態で描いてもらったのですが、鬼夜叉の、明るいだけではないどこか静謐な雰囲気が見事に表現されていて。私も正直に言って嫉妬しました。
三原 あれは僕も嫉妬しましたね。
黒柳 絵で張り合っているわけではないけれども「佐々木さん、すごいな」と思いました。
『ワールド イズ ダンシング』ティザービジュアル
──津村先生しかり、監修陣の方々も非常に豪華ですよね。どうやって実現したのですか。
三原 原作で能の監修をしている川口晃平さんは、実はおとうさんが、かわぐちかいじさんなんですよね。そういったつながりでご紹介いただきました。歴史の監修に入っていただいている清水克行先生はもともと好きでして、ご相談してお引き受けいただいた形です。
黒柳 津村先生はプロデューサーの溝口さんが学生のときに能を教わっていたという間柄で、そこからとんとん拍子でいろいろな人にお力添えいただけるようになりました。作り手としてはドキドキするような出会いばかりでしたね。
作品に登場する歌詞を書いていただいたお一人である長田育恵さんは、朝の連続テレビ小説『らんまん』の脚本家でもありました。私は『らんまん』がすごく好きだったので、とても嬉しかったですね。まさか、アニメの仕事でお会いできるとは。
──作品が形になっていくなかで、お二人のなかで「能」「猿楽」はこういうものなのではないか、という一定の答えは出たのですか。
三原 アニメでも描かれていますが、外にある舞台を人々が囲み、ワイワイガヤガヤやっているお祭り騒ぎのなかで、踊られたものというか。鬼夜叉たちがいた時代の能は現代の能楽堂で見るものとはまた違うのかなとは思いましたね。
黒柳 私は津村先生とお話をしたなかで記憶に残っているものがあります。津村先生は「現代の僕たちも戦国時代や幕末の話が好きでしょう。室町時代においてそれは源平合戦が行われていたあたりの時代の話だった。そうした時代の物語を楽しむための劇が能だったのかもしれないですよね」とおっしゃっていたんです。
私のなかではすごく納得できるお話でした。どうしても現代だと能という形式が前面に来てしまいますが、そうではなかった。一種の劇で、もっと私たちの生活ともつながるような柔らかいものだったのだ、とは感じられるようになった気がしています。
──もう一つお伺いしたいのが本作で掲げられている「なぜ舞うのか」という命題です。どのようにして思いついたのでしょうか。
三原 世阿弥について調べるなかで、世阿弥の漫画をやるなら「世阿弥は南北朝のスパイだった」「義満と恋愛関係にあった」(※ 世阿弥は足利義満からの保護を受けており、後世、二人は男色・恋愛関係にあったのではないかとする指摘もある)などベタな方向で描くのはやめようと思っていました。
そして、連載開始当初はコロナ禍の真っただ中でもありました。舞台やライブなどが開催できなくなっていった。そうした世情のなかで、世阿弥の少年時代を描くことを考えたときに「なぜ舞うのか」というテーマが浮かんだのかもしれないですね。
黒柳 鬼夜叉たちが生きたのは、混とんとしていて明日自分が生きていられるかどうかがわからない、そのような時代でした。その時代に、鬼夜叉たちにとっての舞のような創作物はどれほどの意味を持つのか。
そう考えるとおのずと彼らは「なぜ舞うのか」という問いを立てたのではないか、そして、自分なりの意味を見出したのではないか。踊り続けるなかで混とんとしていた舞が娯楽へと昇華される瞬間が来たのではないか。
原作にあったテーマをアニメーションに昇華するにあたり、私はそのようなことをうっすら考えたように思いますね。
──お二人はこの作品を見た視聴者の方にこんな思いを持ち帰ってほしいといったものはおありですか。
黒柳 もちろん、いろいろな感想を持ってほしいとは思っているのですが、この作品を通して、世界はさまざまな人間の多様な見方があって成立している。そんなことが表現できるといいなと思って作りました。さまざまな立場や考え方があるからこそ生まれる自由の気風のようなものを感じ取っていただけたらうれしいですね。
三原 反響が大きすぎて、まだ自分でも受け止め切れていないというか……。正直なところアニメに関しては僕自身も一視聴者という気分なんです。ただ、原作者としてはアニメになることで、鬼夜叉の可愛さがより強調されている点や、舞がどう表現されているか、新しいキャラクターがどうふるまうのか、原作を読んでくれた方にいろいろと見てほしい部分があります。とにかく楽しんで見てほしいですね。 🎭
取材・文=小林空
撮影=日下部真紀
アニメ『ワールド イズ ダンシング』Blu-ray発売!
- 【Blu-ray1巻】 2026年12月23日(水)発売予定
- 【Blu-ray2巻】 2027年1月27日(水)発売予定
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