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【多田由美╳寺田克也!】 多田由美最新作『レッド・ベルベット』 待望の第①巻4/23発売記念! モーツー誌上で実施中の3号連続対談企画、第1弾がウェブ公開!

19/03/19
80年代の鮮烈なデビュー以来、漫画表現の先端を走り続ける多田由美氏が、月刊「モーニング・ツー」を舞台に贈る約15年ぶりの最新連載『レッド・ベルベット』

待望の単行本第①巻の4月23日(火)発売が決定したのを祝して、モーツー誌上では多田氏と親交のあるゲストを迎えての3号連続対談企画がスタートしています!

ただいま発売中の月刊「モーニング・ツー」2019年4号に掲載されているその第1弾、寺田克也氏との特別対談が、このたびウェブでも読めるようになりました!

共に内外から尊敬を集める漫画家・イラストレーターであり、30年来の旧知の間柄でもあるお二人の貴重な対談を、ぜひご覧ください!



お互いに言いたいことを言い合える仲という
多田由美氏と寺田克也氏。
近い距離だからこそ語ることができる
絵を描くことへの想い。
そして、iPadで作画を行っているという
お二人による最先端の作画事情など、
ここでしか聞けない話が盛りだくさん!


昔から膝の上でマンガを描く女性作家として有名だったからね(寺田)
今はiPadだからインクをこぼさないので安心です(多田)

——お二人の出会いは?

寺田克也(以下、寺田) 「月刊ムー」の読者欄でしたっけ? マンガの国から通信してます、ってオレの呼びかけに反応してくれたのが多田さん……。

多田由美(以下、多田) ち・が・い・ま・す!(笑)。

寺田 何がきっかけだっけ?

多田 私がやっていたサイトのチャットルームに寺田さんが書き込んでくれてからです!

寺田 ああ、そうだ。30年くらい前じゃない?

——寺田さんはそのとき多田さんのことをご存じだったのですか?

寺田 もちろん! 『お陽様なんか出なくてもかまわない』(※1988年出版の短編集)を買ってましたからね。表紙の絵もすごかったし、江口寿史さんが帯で激賞していて。衝撃でしたよ。

多田 ありがとうございます。私も寺田さんが描いたゲームのキャラクター大好きだったんですよ。『バーチャファイター』とか。それまでイラストレーターの方の名前とか知らなかったんですけど、唯一、知っていた名前が“寺田克也”でした。

寺田 肩書は今もマンガ家です!

多田 え? そうなんですか? イラストレーターだと思っていました。

寺田 自分で名乗るときの肩書は常にマンガ家です。編集さんとかがイラストレーターってプロフィールに書くこともあるけど、ハートはギャグマンガ家です(笑)。そもそものデビューがマンガ家なんですよ。ほぼ同時にイラストの仕事もやりはじめたんで、イラストレーターのイメージが強いんだけど、オレの意識のなかでは並列しているんです。

多田 そうだったんですね。

寺田 まあ、マンガはあんまり描いてないんでね……。


寺田克也氏

寺田克也氏


——お互い認識はされている状態でネット上で出会ったわけですね。

寺田 そのチャットルームには『ロックマン』のありがひとしさんとかいろいろな人が来てたんですよね。それから現実でも会うようになったんですけど、住んでる場所が東京と大阪で離れているんで、そんなに頻繁に会う感じではなかったですね。同じ学年の違うクラスみたいな感じで。

多田 年齢も一緒だしね(笑)。

寺田 そういえばそうだ。



登場人物のほぼ全員、アタマが悪い(寺田)
自分のなかにある世界観なんですけどね(笑)(多田)

——寺田さんは多田由美作品のファンと公言されていますが、作品の魅力は?

寺田 とにかく絵が凄いからね。シンプルなのに過不足がない。それでいて感情表現が豊か。余計なところを省いているからこそ感情だけが浮き上がってくる感じが凄い。しかも構図がべらぼうにカッコいい。

多田 あ、褒められてる(笑)。

寺田 あの構図はどうやって思いつくの?

多田 映画ですね。頭の中で映像として話を作っていくときに、カメラを変える感覚です。次はこっちのアングルにしようとか。


『レッド・ベルベット』scene.1 より。

『レッド・ベルベット』scene.1 より。


寺田 頭のなかで再構築してるんだね。手持ちカメラっぽい感じで構図が変わるから、読んでると目の前で物事が実際に起きている感覚になる。背景もしっかり描いているし、あんなに背景描くのって面倒臭くない?

多田 背景描くのは好きなんですよ。背景込みで世界観だから。楽しいですよ。

寺田 あと、登場人物のほぼ全員、アタマが悪いのが最高です。絵柄にごまかされて、多田由美の作品はおしゃれなマンガだと思っている人がけっこういるけど、全然そんなことはない。そういうことを言ってると読んでないのがすぐバレる(笑)。

多田 オシャレだとは言われますけどね……。

寺田 レビューで、“アメリカの安いスーパーを出すことがカッコいいと思っているのだろうか?”って書かれてあるの見たけど、読んでないなと。多田由美のマンガに出てくる連中は、安いスーパーしか行けない奴らなんだよ! そういう人たちしか出てこないマンガなんだよって。だから、読んでいる人と読んでいない人がすぐわかる。そこも多田由美作品の面白さですからね。だってあの世界観を花輪和一さんの絵でやったらドロドロ過ぎて大変なことになるでしょう。

多田 ハハハ。

寺田 白人のイケメンと美女しか出てこないように見えて、内面はヒドい連中がメインだから。あの世界観はいったいどこから出てくるんですか?

多田 自分のなかにあるものですね。


『レッド・ベルベット』scene.2 より。

『レッド・ベルベット』scene.2 より。


寺田 でも、ほとんどの作品はアメリカが舞台でしょ? 深い理由が?

多田 舞台をアメリカに置き換えたらイタくないかなって。自分が生きてきた環境に当てはめて描くと悲惨になりすぎちゃうので、オブラートに包んでおこうかなって。

寺田 それはわかる。よそにすることで客観的に描けるからね。描くことで救われていたってこと?

多田 愚痴を言わなくてすむようにはなりましたね。

寺田 作品を読めばわかるけど、そうとう辛かったんだねえ。

多田 みんなそういう気持ちを持っているんじゃないですか?

寺田 オレはわかんない。そんなに辛い人生じゃないハズです(笑)。

多田 自分が生きてきたなかから描いているとネタを探さなくていいからラクですよ。

寺田 感情は本物だもんね。

多田 SFで場所は宇宙だとしても、登場する人物が考えていることは地上の人間と一緒ですからね。

寺田 設定がどんなところでも、感情が本物だったらマンガは成立しますからね。

多田 そう思うんです。でも、まあ、編集からは日本を舞台にして描けって何回も言われましたよ。だけど、そんなことしたらイタくて悲惨で、どうしようもない世界になっちゃう。

寺田 多田由美が日本を舞台にして描いたらイタいだろうなあ……韓国映画を観ていると、かなりキツイことを描いているのに舞台が日本じゃないってだけで観れる、ってことはあるので、そういうことにも通じるのかな。

多田 そう思ってもらえると嬉しいですけどね。“オシャレな雰囲気マンガ”って言われると褒めてもらっているのかわからない(笑)。


多田由美氏

多田由美氏


——絵柄が洗練されているので、どうしてもそう捉えてしまうのかもしれません。小物ひとつとってもオシャレに見えますから。

多田 オシャレそうに見えてどこにでもあるつまらないものしか描いてないんです。わざと安っぽいものにしてます。

寺田 それは背景に不必要なタッチを入れないことにもつながっていて、空虚な感じが線だけの建物とかに現れている。頭の悪い男が、女性を誘拐して刺されて死ぬとか、全然オシャレじゃない(笑)。多田由美のマンガはね、とにかくヒドい話が多い(笑)。

多田 否定できない(笑)。

寺田 やっぱり映画からの影響なんだろうねえ。

多田 映画はいっぱい観ました。

寺田 オレは多田さんの作品を読むとアベル・フェラーラ(※ブロンクス生まれの映画監督。ハーヴェイ・カイテル主演の『バッド・ルーテナント』など)を思い出しちゃう。

多田 誰ですか?

寺田 一見すると娯楽作に見せて、実は人間の闇しか描かない作品ばかり撮る監督がいるんですよ。アメリカのダメな感じが見えていいんですよね。

多田 へえ。

寺田 でも、オレのなかではアベル・フェラーラが多田由美っぽいんだけどね。フェラーラの映画の前に多田由美がいたから(笑)。そういえば昔、江口さんが、タランティーノを観るんだったら多田由美を読め、って言ってたのを思い出しました。

多田 結局、私たちは同じものを観て育ったんだと思うんですよ。平日の昼間にテレビで流れるような映画の影響が強いです。

寺田 観終わったあとにざらついた変な感じが残る映画ね。そういや、作品に出てくるキャラクターの名前ってどうやって決めてる?

多田 『レッド・ベルベット』に関しては、『マイネーム・イズ・アール』っていう大好きなコメディに出てくるアールとランディっていう兄弟の名前からです。

寺田 『アール』ね! あのドラマ面白かったよなあ。

多田 あのドラマへのオマージュです。DVDを探しているんですけどないんですよね。

寺田 あの作品も頭が悪い人しか出てこないからな~。コレは褒め言葉ですけど。

多田 そ、そうですね(笑)。貧しくて、ヒドいカルマに苦しめられて生きていくっていう。

寺田 頭の悪い人が一生懸命生きているとそれだけで切なくて泣ける。自分を投影して(笑)。

多田 きっと赦しがあるだろうって思いながら観られます。



作画作業はすべてiPadで完結させています(多田)
うん、オレもそうだよ(寺田)

——お二人は早くからデジタル環境で絵を描かれていますが、現在はどんな工程で作業を行われているのですか?

多田 (iPad Proを机に出しながら)私はすべてコレで描いていますね。

寺田 あ、オレもだよ。(といってiPad Proを出す)仕事はほぼiPad。


机の上はiPadでいっぱいに。

机の上はiPadでいっぱいに。


——あっという間に机に4台のiPad Proが出てきました(笑)。お二人とも昨年に出たばかりの新型ですね。しかも2台持ちしているのが凄いです。

多田 出た瞬間に1テラのセルラー版を買いました。

寺田 オレもそれを手に入れました。

——アプリケーションは何を使われているのですか?

多田 “Procreate”です。

寺田 オレもそれ。便利だよね。ペンは鉛筆ブラシを使って、色塗りはニッコラルブラシで。

多田 私は製図ペンと自分で作ったものを使ってますね。

寺田 作ったんだ? 何をベースにしてるの?

多田 パソコンで水彩っぽいブラシを作ったやつがベースですね。それに100%手ブレ補正をかけてるんで、にゅるって描けるんです。

寺田 いいですね。ください!

多田 いいですよー。

——(あっという間にデータ送信完了)

寺田 やったー! ありがとう。オレは基本的にあるものを使っちゃうけど、作るのも面白いよね。

多田 作ったほうが描きやすいんですよ。

——iPadで描く理由は?

多田 どこでも描けるのがいいんです。Apple Pencilが発売されて授業の合間の休み時間でもペン入れができるようになったし(※多田氏は神戸芸術工科大学のまんが表現学科の准教授を務めている)。それまでは原稿用紙や画材を持って歩くのが大変だったので。

寺田 多田さんは生原稿のころから膝のうえで原稿を描くことで有名だったからね。そもそも子育てしながらずっとマンガ描いていたでしょ?

多田 そうです。インクを床の上に置いて、子どもが来たらフタを閉めて逃げてました(笑)。膝の上で描かないと間に合わなかったんです。

寺田 今もそんな感じ?

多田 最近は家じゃなくて喫茶店で描いてますね。外のほうが集中できます。

——下書きからペン入れ、入稿まですべてiPad上で完結させているんですか?

多田 『レッド・ベルベット』はそうですね。コマ割りは“CLIP STUDIO”で、それ以外は“Procreate”です。

寺田 カネコアツシさんは『デスコ』の途中から、作画を“メディバン(MediBang Paint)”で描くようにしたんだけど、アナログとデジタルの境目がわからない。それくらい“メディバン”に馴染んでいるけど、“Procreate”だけでやってるのは、オレの知ってるベテラン作家だと多田さんだけだなあ。

多田 まだまだ線の太さとか改良の余地がありますけどね。iPad1枚あればどこでも描けるのはいいですよ。


多田氏の作画環境はiPadの下に筆入れを敷くのがポイントだそう。

多田氏の作画環境はiPadの下に筆入れを敷くのがポイントだそう。


寺田 今まではパソコンに向かわないと描けなかったものが、膝の上だろうがどこでも描けるし、角度も自由だし、寝そべって描いてもいいわけでしょ? 特にオレは旅行をすることが多いので持ち運びやすくていいです。あと残っている課題は画面の大きさだけかな~。今、使ってるのが12.9インチだけど、本当は30インチくらいのが欲しいんだよね。絵を描くときはその大きさが欲しい。

多田 全体を見ないといろいろやらかしちゃってることに気づかないですからね。

寺田 そうそう(笑)。最初の頃は感覚がついてきてなくて、「え?」って思うことがけっこうあった。そもそも全体を俯瞰で見ないとダメな世界なんで、もう、それこそ2台つなげてひとつになるとか、4枚つなげて描くところだけ反応するでもいいから、それくらい欲しい。

多田 それ、いいですね。だけど、4台も置くスペースがないです(笑)。

寺田 そりゃあ多田さんは膝の上で描こうとするからだよ!

多田 あ、そうか(笑)。でも、もうちょっと大きなサイズが欲しいですよね。

寺田 うん。せめて15インチね。まあ、ここで言っててもどうしようもないんだけどさ(笑)。

多田 言っていきましょうよ!

——多田さんは教鞭をとられていますし、寺田さんも海外を含め講演をすることも多いと思います。絵が上手くなるには?という質問にはなんて答えられているんですか?

寺田 そんなのあるわけない。たくさん描く。

多田 私は学校で教えていますけど、まずそこですよね。

寺田 そもそも全然描いてないじゃないか、って人が多い。上手い人のを見て辞めちゃう人も多いけど、上手い人がいるんだったら、近づくことはできるだろうって考えになったほうがいいんだよね。

多田 誰かができてるんだったら、そこに到達しなくてもその半分くらいにはいくんじゃないのって考えですね。

寺田 別にウサイン・ボルトの話をしているわけじゃないからね。100メートルを9秒で走れって話じゃなくて12秒20秒でも十分速いでしょって。やらない理由を探す人のほうが多いからちょっともったいない。だから「上手くなる秘密」がないことも我々は言い続けなきゃいけなくて。上手くなりたかったら描くしかない。才能とかは描いたあとのことだから。描いている人が上手くなる。上手い人が描いてる時間に自分はどれだけ近づけているんだって話。圧倒的にそこの時間が足りてない人が多い。でも描ける人は黙っても描いてる人という印象です。


しゃべりながら絵を描き続ける寺田氏。

しゃべりながら絵を描き続ける寺田氏。


多田 私は学校で教えているのでいろいろ思うところはあるんですけど、自分自身のことを言うと、3年くらい前からもの凄く描いていますね。

寺田 おおっ!

多田 寺田さんは描かない人は嫌いですよね?

寺田 充分に描いた人へのリスペクトは永続するので、多田さんは大丈夫ですよ。

多田 そんなことないですよ。きっと描かない人を嫌いになるに決まってる(笑)。

寺田 わはははははは。でも、そう思うところが多田由美の原動力だと思う。描かなきゃ嫌われるっていう。でも、まあ、好きな作家には描いて欲しい気持ちはありますよ。描けない理由もめちゃくちゃわかるからね。だから、新作が読めるだけでハッピーですよ。これがあと40年くらい続くといいなと思っています(笑)。

多田 40年は無理ですけど、たくさん描きたいです。寺田さんとはもっと会って話したいですよ。



寺田 あ、オレ、3月に京都で個展をやるから(※3/23~4/14京都・トランスポップギャラリーにて寺田克也個展「寺田爺」開催。詳しくはこちらのリンク先 外部リンクへ)そのときに声かけますよ。

多田 ぜひ。観に行きます!

寺田 京都の二条に「ニコヨン」ってカレー屋さんがあって美味しいんですよ。

多田 じゃあ、次はカレー屋さんで会いましょう。 🎨

文=高畠正人
写真=柏原力




寺田克也氏による『レッド・ベルベット』トリビュートイラストも!

今回の対談開催を記念して、『レッド・ベルベット』の主人公・アールを寺田克也氏が描き下ろしてくれました!

当サイトでは、完成したイラストと、その作画動画を一緒にお楽しみいただけますので、ぜひご覧ください!




なお、3月22日(金)発売の月刊「モーニング・ツー」2019年5号には、3号連続対談企画の第2弾が掲載されます。ゲストは村田蓮爾氏です! どうぞお見逃しなく!



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